クラフトアイスクリーム談義#1- 後編 –

クラフトアイスクリーム談義#1- 後編 - 青果ミコト屋「KIKI NATURAL ICECREAM」 クラフトアイスクリーム談義#1- 後編 - 青果ミコト屋「KIKI NATURAL ICECREAM」

ハンデルスベーゲンの中野が、第一線で活躍しているクラフトアイスクリームのつくり手に会いに行く新シリーズ「クラフトアイスクリーム談義」。

「クラフトアイスクリーム」とは、自然の素材を使い、素材本来の良さを引き出せるよう製法にこだわり、少量ずつ丁寧に作られているアイスクリームのこと。私たちハンデルスベーゲンも、自然の素材だけを使い、乳化剤・安定剤・着色料・香料無添加の100%ナチュラルなクラフトアイスクリームを、日々手づくりしています。

ひとくちにクラフトアイスクリームと言っても、個性は全く異なっているのがその面白さ。つくり手の思いやこだわりに触れ学びを得ると同時に、読者の皆さまにも多様なクラフトアイスクリームの世界を紹介したいと思ってこの企画を始めました。

今回ご紹介するのは、なんと我々の横浜市青葉台の工房から徒歩10分ほどの場所に拠点を構える「青果ミコト屋」さん。その名の通り、青果を扱う八百屋さんでありながらクラフトアイスクリームブランド「KIKI NATURAL ICECREAM」を2021年3月にオープンしました。

「青果ミコト屋」代表の鈴木鉄平さんを訪ねて話を伺いました。前編、後編の2回に分けてお届けします。

ネガティブなものを、アイスクリームの力でポジティブに

鈴木:最近では、畑だけでないさまざまなところから、ロスになってしまいそうな食材が集まってくるようになりました。例えばパン屋さんが使いきれないパンの耳を、ビール屋さんが麦汁を絞った後の麦芽のカスを、「これもアイスクリームにできる?」って。

中野:まるで、お題に答えるようにアイスクリームをつくられているんですね。

鈴木:まさにそうですね。僕たちのアイスクリームは、受け皿になることで生まれているように思います。そして、規格外や売れ残りなどといった一見ネガティブなものを、ポジティブなものに変えることができる。うちのスタッフたちも、そういった難しいものの中にこそ光るものがあることを知っているし、自分たちのアイデアと行動ひとつでポジティブに変換できるということに、やりがいを持って向き合ってくれています。

ネガティブなものを、アイスクリームの力でポジティブに

中野:次はどんなお題が来るんだろうといった面白さもありそうですね。でも、そういった規格にはまらないものを扱うということには、大変なことも多そうです。

鈴木:規格外の野菜を使っているんだから原価安いんでしょ、みたいに言われることがありますが、とんでもない!先日も、届いたレッドキウイが軟腐病に感染していて、20kgのうち12kgぐらいがダメになってしまっていました。もちろん捨てずに、5人で6時間ぐらいかけて傷んでいるところをとって使いましたが、人件費に換算するとどれだけかかっているんだという感じですよね。そんなことばかりです。

中野:普通だったらやらないような、手間も面倒もかかることを日々やられているんですね。

鈴木:よほどA品を使ってアイスクリームをつくった方が安いと思います。でも、その何倍も価値があると思っているからやっているんです。

中野:ことごとく筋が通っていてかっこいい。僕らもアイスクリームづくりをしているからこそ、規格外のものを扱うことの大変さはよくわかります。本当にすごいことだと思います。

ネガティブなものを、アイスクリームの力でポジティブに

鈴木:実はショーケースにもこだわりがあるんですよ。わざと蓋のついているケースを選んで、中身が見えないようにしているんです。見えると、どうしても見た目や色といった視覚情報で選んでしまいがちでしょう。でも、見えない。見えないからポップに書かれた紹介文を読むわけです。僕らはポップをコミュニケーションツールだと思って、とても大事にしています。

中野:使っている素材の説明が、ぎっしり書かれていますね。野菜や果物、生産者さんへの愛とリスペクトを感じます。

鈴木:「KIKI NATURAL ICECREAM」のアイスクリームを買うことで、微力ながら社会の課題を解決することができるし、生産現場に思いを馳せることができる。気持ち良い循環や消費を生み出せていると思っています。

レシピづくりは、料理をつくるお母さんのような気持ちで

鈴木:アイスクリームのレシピをつくったり製造したりする部分は、全てスタッフのりえちゃんが担当しています。ここからは、ぜひりえちゃんにアイスクリームにまつわる具体的な話を聞いてもらえたらなと思います。

りえ:こんにちは。アイスクリーム製造担当のりえです。よろしくお願いします!

中野:りえさん、よろしくお願いします。それにしても、「気まぐれオレンジロード」「ラベンダーウメミルク」「月桂樹とオリーブオイル」など・・・どれも独創的で、これはどんな味がするんだろう?と考えるだけでワクワクします。フレーバーはどのように考えられているのでしょうか?

レシピづくりは、料理をつくるお母さんのような気持ちで

りえ:ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。フレーバーを考えるときは、料理からインスピレーションを得たり、色や産地といった共通項を見つけて合わせたりすることが多いですね。例えば「気まぐれオレンジロード」は、ミコト屋で取り扱っているさまざまな種類の柑橘にクミンを合わせているのですが、それはオレンジキャロットラペから人参を抜いたイメージでつくりました。他にも「鶴首かぼちゃと黒豆煮」というフレーバーがあるのですが、それはいとこ煮からの着想でつくりました。

中野:なるほど!まず素材があって、そこからレシピを考えるというのは、料理をするのとよく似ていますね。

りえ:はい。冷蔵庫にあるもので料理をつくってくれるお母さんのような気持ちで、「あの子とあの子がいるな」と愛情を持ってアイスクリームをつくっています。「これとこれは合わない」と決めつけず、どんなものでも組み合わせることはできるんじゃないか?というスタンスで素材と向き合っています。例えば「ラベンダーウメミルク」。ラベンダーも梅もバラ科の植物なんですよ。香りで合わせてみたらどうだろう?とつくったフレーバーです。

レシピづくりは、料理をつくるお母さんのような気持ちで

中野:発想が柔軟だし、なによりユニークですね。これまでどのぐらいの種類をつくられてきたんでしょうか?

りえ:2年間で、160種類はつくってきましたね。ポップの左肩に連番を振っているので、初期からある定番フレーバーか、最近つくったフレーバーかもこれでわかります。

中野:160も!それは驚愕の数字です・・・!

りえ:でも正直大変なこともたくさんありますし、一人じゃできないのでみんなの力を借りてつくっています。素材を見て食べてみて、どんなフレーバーがいいかな?と話したり。例えば柑橘など製造室チームだけでは絞りきれない時は出荷チームの力を借りて手絞りしたり。

中野:すごいことだと思います。そうやって試行錯誤して生まれた数だと思うと、なんだか感慨深いですね。

農家さんからのバトンを、アイスクリームでお客さんへ

中野:もともとアイスクリームをつくられていたんですか?

りえ:いいえ、これまではレストランでデザートを担当してきました。アイスクリームは、「KIKI NATURAL ICECREAM」を立ち上げることになった時から、独学でつくってきたんです。みんなで試行錯誤しながらここまできました。

中野:独学とはすごいですね!

りえ:フレーバーは、先ほどお話ししたようにこれまでの経験や知識を踏まえて考えられるのですが、アイスクリーム特有の舌触りをつくるのにはとても苦労しました。なめらかにしたいのに、氷の結晶ができてジャリっとしてしまったり。アイスクリームが安定するためには脂肪分と糖度が必要かと思うのですが、そんな前提知識もなかったためとにかく何度も試作して調整を重ねながらポイントを見つけてきました。

農家さんからのバトンを、アイスクリームでお客さんへ

中野:わかります!難しいですよね。アイスクリーム業界では長年、なめらかさや舌触りをよくするために乳化剤・安定剤の使用は欠かせないとされてきました。10年ほど前にアイスクリーム屋を始めた僕たちも、当初は乳化剤・安定剤を使っていたんです。でも、なるべく自然の素材だけ使いたいと思い結構な時間をかけながら試行錯誤して、ようやく昨年から全ラインナップを乳化剤・安定剤・着色料・香料無添加に切り替えることができました。ハンデルスベーゲンらしい濃厚でなめらかな舌触りを出すためには苦労しましたね。

りえ:みなさんでも苦労されていたのですね!ちなみに、私たちはより素材の味を楽しんでもらえるように、ミルク系のフレーバーでも生クリームはほんの少ししか使わずさっぱりと仕上げています。

中野:その点、僕たちは、割合でいうとミルクと生クリームは半分ずつぐらいの超濃厚なものなので、随分違いますね(笑)こうやって味のつくり方に幅があり、個性が出せるのが、クラフトアイスクリームの良さでもありますね。

りえ:本当ですね!私たちのアイスクリームはまだまだ完成系ではないと思っていて、「もっとこうしたい!」という思いが常にあります。また、野菜一つひとつに、甘みの強いもの、苦さがポイントのものなど味の特徴があるので、なるべくその特徴を最大限に活かしたアイスクリームをつくっていきたいなと思っています。

中野:「こういう味をつくろう」じゃなくて、「素材の味を最大限表現しよう」という発想が本質的で、かっこいいなと思います。

農家さんからのバトンを、アイスクリームでお客さんへ

りえ:ありがとうございます。私たちは、農家さんたちからバトンをもらう感覚でアイスクリームをつくっています。そのバトンを、お客さんへと繋いでいくのが私たちの役割。大変なことも多いですが、やりがいがありますし、誇りを持ってアイスクリームづくりに取り組んでいます。

中野:素敵ですね。これからどんなお題がきて、どんな素敵なアイスクリームへと変身させていくのか、みなさんの想いを知ってますます楽しみになりました!

りえ:どんどんお題が来るし、やりたいこともたくさんあるので、次にいらした時にはまた違うフレーバーが登場しているはずです。そして、今度はハンデルスベーゲンさんの工房へもお伺いしたいです!

中野:ぜひ遊びにいらしてください!取材をきっかけに仲良くさせてもらえたらいいなと思っていたので嬉しいです(笑)。本日は、お忙しいところ本当にありがとうございました。

★対談を終えて

「旅する八百屋」として活動を開始された当初から注目していた青果ミコト屋さんが、ついに自分たちの拠点を作って、そこではロスになる野菜や果物を活かしたクラフトアイスを製造販売するらしい(しかも場所は私たちの工房から歩いて10分!)と聞いた時から、「いつか取材させてもらいたい!」と考えていましたが、その念願がやっと叶いました。

お話を聞けば聞くほど、実現したい世界や、伝えたいことがある人ってやっぱり素敵だな、と思うとともに、目指すものは違えど自分達もこういう姿勢でものづくりに向き合いたいな、とやるべきことを再確認させてもらう取材となりました。

それにしても、そんな色々な思いを丸ごと受け止めてくれる「アイスクリーム」というものの懐の深さはやっぱり特別なものですね。